被災者が復旧・復興を目指し、新たな道を歩むには、心身の健康を回復することが緊要となる。
医療機関の状況をマッピングすることにより、患者受け入れ状況や今後の対応などが見えてきた。
2011年3月11日(金)14時46分、三陸沖を震源に岩手県沖から茨城県沖にわたる広域かつ大規模な地震が発生した。同日14時50分、厚生労働省は、災害対策本部を設置し、医療専門機関を集結させ、被害状況の把握及び共有情報や情報発信の方法などについての活動を開始した。国立保健医療科学院からも何名かの研究者がメンバーとなった。また、メンバー以外の院内研究者も病院、診療所、社会福祉施設など被災した医療機関の被害状況調査や、放射線影響に関する対応の協力体制をとった。その際、各種情報を視覚化することが大変有用であることから、ESRIジャパンの震災向け無償GISライセンス提供に申請し、各種マップ作成に着手し、同本部などへ提供した。
被災地では避難所等での生活が長期化し様々な健康への影響が懸念されていた。飲料水、食品、住環境などの確保の他、通院可能な病院確保が重要となった。さらに、今後の医療計画や地域連携の対応も検討されることになった。特に、原子力災害に伴う避難範囲を設定する上で、正確に医療機関等の位置情報の把握が求められたが、GISを用いることで的確な搬送指示ができた。
まず、広域的に受入れ患者数を把握するため、岩手県、宮城県、福島県の3県の医療機関をポイント化し、医療機関の位置関係を把握するとともに、被災状況や患者の受入れ可能な病床数などを把握できるマップを作成した。
福島第一原子力発電所の事故以来、放出された放射性物質による健康被害が心配されている。体外から放射線を受ける「外部被ばく」と放射性物質で汚染された水や食品を体内に取り入れることで起こる「内部被ばく」があるが、双方とも放射線量が影響しているため、目に見えない放射線がどこにどれだけ拡散しているかを把握するためにもリスク評価をする必要があった。
そこで、文部科学省及び自治体などで公表されている空間線量率のポイントデータをもとに、空間線量分布マップを作成した。ArcInfoとGeostatistical Analystを使用し、空間分布推定を行い、空間線量率を等高線として表現し、空間線量率ごとの土地利用種別の集計(例えば、空間線量率1.000~1.500μSv/hの領域での森林面積や建物用地面積の推計)を行った。
このマップは、東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質に係る除染等の措置等に係る事項について検討することを目的として設置された環境省の環境回復検討会の参考資料としても提供された。
国立保健医療科学院は、保健、医療、福祉に関係する職員などの教育訓練や、それらに関連する調査及び研究を行う厚生労働省の研究機関である。本院では、東日本大震災に関する保健医療関連の情報提供サイトを開設し、健康危機/保健・看護活動/食事・栄養/口腔ケア/環境衛生/医療/健康管理/災害対策全般/原子力災害の9つのアイテムについて情報発信をしている。
健康危機のアイテムでは、健康危機管理支援ライブラリー「H-CRISIS」(http://h-crisis.niph.go.jp/)として専門サイトを設置し、災害有事・重大健康被害(例えば、食品中の放射性物質の検査結果や水道水中の放射性物質の調査結果など)を始め、食品安全、感染症、医療安全、医療品医療機器安全など様々な情報を発信している。