リモートセンシングを利用し、土木構造物の遺跡からモホス文明全体を把握。
効率的な予備調査を可能にする。
考古学では発掘の調査地点が極めて重要な意昧を持つ。従来、調査地点は事前の入念な予備調査を経て決定される。調査地点を適切に決定すれば、発掘調査における資料収集が効率的に進み、遺跡の破壊は最小限となり遺跡の保護にも繋がるためである。そこで、広域な対象地での、リモートセンシング技術を用いた効率的な調査地点の選定が求められる。
モホス文明とは古代にアマゾン地域に存在したとされる高い土木技術、水利技術を持った文明のことである。ボリビア・べ二州にはその痕跡と思われる、洪水から身を守るために高められた「ロマ(Loma)」と呼ばれる人工のマウンド、ロマ同士を繋ぐ「テラプレン(Terraplen)」と呼ばれる道路、さらに運河跡、農耕地跡、人造湖が多数存在する。
この文明は高度な土木技術、水利技術を持っていたとされている。現在でもこの地域に存在するロマ、テラプレン、運河、農耕地、人造湖がそれである。この地域は雨季にJllが氾濫し、平原の大部分が水没してしまう。
ロマは水害から身を守るためにつくられた人工的な丘陵であり、その上で古代人は生活していたものと考えられている。テラプレンもまた同様の理由で盛土されたものであり、ロマ同士を繋ぐ道路として機能していたと考えられている。農耕地も高く盛土がされており、雨季に沈まないようになっている。
人造湖はこの地域に2千個以上も存在するとされ、多くが北東-南西を向いており、長方形である。治水、乾季の水の確保、魚介類の養殖等に使用されていたと推測され、人間生活と密接な関係性が考えられる。本研究では衛星画像を用いて人造湖および河川のモホス平原の水系を抽出し、その分布状況から調査地点の選定の検討を行った。
今回使用した衛星画像は、JERS-1/SARである。SARは大気中の粒子の大きさに比べ長い波長のマイクロ波を用いているので、大気の透過率が高く、雲に影響されにくい。よって、晴天率が低く、焼畑によって大量に煙が発生するアマゾン川流域でもSARによる観測が可能である。
SAR画像上では湖および河川は黒く表れており、これを抽出した。
衛星画像から各対象の特徴量として、面積、周囲長、形状係数を求め、人造湖および河川の抽出に用いた。対象地域全体に同様の処理を行ったことで、人造湖がいくつかの河川を境界に分布していることが確認できた。
人造湖の分布状況から、文明の中心地と相関のありそうな人造湖分布の重心を求め、調査地点の選定の検討を行った。
今後は、衛星データを使ってロマおよびテラプレンの抽出を行い、文明全体を土木構造物のネットワークから把握し、調査地点の選定の検討を行いたい。それには、地形図、標高デー夕、ALOSの可視、近赤外、SAR等を総合的に評価するアルゴリズムの開発が必要であり、今後の課題としたい。