川俣町は、放射性物質の除染を実施する中で作成される種類・量ともに膨大になる除染作業成果データを、システムを使って管理できないか除染事業の当初から検討していた。成果データは位置情報を持つものが多いため、GISによる管理が適当であると判断し、ArcGIS for Serverでデータを一元管理するシステムの導入を図った。この結果、データ検索が容易であるため住民への情報提供の迅速性が確保でき、除染効果を視覚的に表現できるため住民への説明が分かりやすく可能になるなど、住民サービスの質の確保につながった。
川俣町では、平成23年3月11日の東日本大震災による福島第一原発の事故で放出された放射性物質の除染にむけて、町内全域(国が主体的に除染活動を実施する山木屋地区を除く)において、平成23年度から除染事業を開始し、平成24年度からは本格的な除染作業を実施してきた。
除染事業では、事前調査による空間線量モニタリングや除染範囲の設定、除染作業後の空間線量モニタリングなど、位置情報を持つ面的・点的なデータが数多く作成される。これらの成果データは種類が多く量も膨大になるため、成果データの作成ルールを明確にし、事前調査や除染作業を請け負う業者が作成するデータの均一化を図った。合わせて、これらのデータの効率的な管理のためにGISシステムによる管理が必要であると判断し、平成24年度の業務において除染成果品管理システム(以下、管理システム)の構築・導入を決定した。
管理システムは、1台のサーバと管理システム専用の3台の端末で構成されるクライアント/サーバ型のシステムである。個人情報を扱うため、川俣町のセキュリティポリシーにのっとり、外部と接続のない閉じられたネットワークで構成されている。除染範囲や空間線量モニタリングポイントなどのGISデータはArcGIS for Serverで一元管理されている。また、除染作業に伴って作成された除染実施報告書や除染実施計画書・現場写真など、除染範囲やモニタリングポイントに関連づく成果データに加え、モニタリング結果の集計表や除染実績図といったGISデータに直接関連づかない成果データも全てサーバに搭載し、管理システムから閲覧可能としている。
管理システムを導入したことで、3つの大きな効果があった。
1点目は、データを探す時間の大幅な短縮である。たとえば、ある年度の1つの除染工区の成果品だけでもDVDで30枚以上あるため、特定のデータを探すためには相当な時間がかかる。しかし、管理システムを使うことで、除染した宅地の管理番号で検索をしたり、普段から使い慣れている住所で検索して付近のデータを探したりすることが容易になる。また、GIS上で宅地を選択すると、除染計画書などの宅地に関連するデータを一覧でき、必要なデータを見つけやすいため、住民からの問い合わせ対応をスピーディーに行うことができる。除染作業の成果データを全てサーバに搭載しているため、欲しいデータはまずシステムを使って探す、という意識が職員の間に根付いている。
2点目は、集計や要監視地点の把握のしやすさである。除染作業を行った結果、線量が下がらなかった地点は要監視地点として監視の必要があるが、統一したフォーマットでGISデータ化しているおかげで、このような要監視地点を工区全体あるいは大字単位で容易に抽出することができる。各工区の除染結果の取りまとめ資料の作成に役立てている。
最後に3点目として、地図を用いた説明資料が作成可能になったことである。背景として航空写真や住宅地図を使い、地番図と地番を重ねて表示して住民説明用の印刷物を作成したり、モニタリングポイントデータから空間的な補間を行った面的なデータを作成し、町内の除染作業前後の線量の変化を視覚的に把握できる資料を作成したりするといった、目に見えにくい除染作業の成果を分かりやすく“見える化”することで、住民の疑問や不安を解消するために活用している。
今年度(平成26年度)は、平成24年度に除染作業を行った地区において、宅地に隣接した範囲の除染を実施する予定であり、そこで作成されるデータもこれまでのデータと同様に管理する。また、除染作業によって発生した除去土壌などを一時的に保存する仮置き場では、今後継続的に空間線量の計測が必要であるため、これらのデータも管理システムで一元管理する予定である。まだまだ増え続ける除染作業成果データは、管理システムを使った効率的な管理によって、住民への迅速な情報提供や不安の解消に一層活用されることが期待される。